Innuos STREAM1からNAZARÉまで比較試聴|シマムセン試聴会レポート

イベントレポ
Innuos視聴会の機器たち。

2026年6月27日、大阪・日本橋のシマムセンで開催された「Innuos製品試聴会」に参加してきました。

Innuosはポルトガルのネットワークオーディオブランドです。今回の試聴会は国内では2回目の開催とのことで、輸入代理店タイムロードの奥村さんが講師を務めました。

第1部ではSTREAM1、STREAM3、ZEN Next-Gen、第2部ではZENith Next-GenとフラッグシップモデルのNAZARÉを試聴。100万円以内のエントリーモデルから1,000万円に迫る最上位モデルまで、Innuosのラインアップをほぼ一気に聴ける貴重な機会でした。

以下は会場での個人的な感想です。座席位置、音量、接続方法などの条件が完全に統一された比較ではないため、製品の絶対的な評価ではありません。

また、会場のNW環境は良いものでは決してなく(当日はNWトラブルで中断する場面のありました。)環境によって印象は大きく変わるものと想像します。

試聴システム

再生機器以外の共通システムは、次のような構成でした。

  • アップスケーラー:CHORD Hugo M Scaler
  • DAコンバーター:CHORD DAVE
  • プリアンプ:TAD TAD-C1000
  • パワーアンプ:TAD TAD-M2500TX
  • スピーカー:TAD TAD-GE1-WN

ネットワークプレーヤーより後段だけでも相当なハイエンドシステムです。とくに第2部はNAZARÉを含めると、国内定価で総額3,000万円を超える規模になります。

第1部:STREAM1、STREAM3、ZEN Next-Gen

Innuosが目指す「脚色しない音」

最初に説明されたのは、Innuosの基本的な設計思想です。

目指しているのは、オーディオ的な味付けを加えることではなく、音源に含まれる情報を自然に再現すること。回転部品を極力なくし、独自OSと専用ハードウェアを組み合わせることで、短期的な流行を追うよりも安定性と長期使用を重視しているとのことでした。

試聴には主にQobuzが使用されました。

一方、内部には第13世代Intel系のプラットフォームやDDR4メモリなど、比較的一般的なコンピューター部品も採用されているとの説明がありました。

そのため、Innuosの独自性は個々の部品そのものよりも、電源、クロック、基板、筐体、OSを音楽再生用としてどう統合し、余計な処理を排除しているかにあると理解するのがよさそうです。

STREAM1+Standard DAC Board

最初に聴いたのは、STREAM1にStandard DAC Boardを搭載した構成です。

試聴曲は次の4曲でした。

STREAM1はシリーズのエントリーモデルですが、この時点でも大きな破綻や極端な癖は感じませんでした。

ただし、Standard DAC Boardを含めた一体型プレーヤーとして聴くと、わずかに音が抜け切らず、表面にざらつきのようなものが残ります。音像や空間もスピーカーの周辺にまとまりやすく、後に聴いた上位構成と比べると、音場の広がりや透明感には明確な差がありました。

LPS1の有無を比較

「Gravity」と「Una furtiva lagrima」では、STREAM1用の外部強化電源LPS1の有無も比較しました。

LPS1を加えると、背景の静けさが増し、音の表面に感じていたざらつきが減少します。音の輪郭を強調する方向ではなく、細かな濁りが引いて、演奏が滑らかにつながる変化でした。

STREAM1を単体で聴いたときよりも明らかに完成度が高く、「STREAM1を本格的なオーディオシステムで使うならLPS1はほぼ必須なのでは」と感じるほどです。

本体価格に対して電源の追加費用は小さくありませんが、変化量は比較的大きい組み合わせでした。

STREAM1とSTREAM3を比較

続いて、ショスタコーヴィチの交響曲第5番でSTREAM1とSTREAM3を比較しました。

STREAM3では音場が左右へ大きく広がり、音がスピーカーから出ているという感覚が薄くなりました。

STREAM1では左右のスピーカーを基準に音場を認識しやすかったのに対し、STREAM3ではスピーカーの外側や奥にも演奏空間が続いているように感じられます。

ただし、試聴時にはSTREAM3の方がやや音量が大きく聞こえました。音量が少し上がるだけでも、広がり、低域の量感、解像感は良く感じやすいため、完全に公平な比較だったかという点には留保が必要です。

それを差し引いても、STREAM3の方が明らかに上位らしい音だったことは確かでした。

さらに次の曲を試聴しました。

STREAM3に搭載されていたPhoenix DAC Boardは、Standard DAC Boardよりも透明感、音場の広さ、低域の制動のいずれも優れています。

Standard DAC Boardでは「内蔵DACでひとまず完結できる」という印象でしたが、Phoenix DAC Boardは単体DACとしても十分に聴ける音でした。

ストレージ追加でCDリッピングにも対応

STREAM1とSTREAM3には、SSDを追加することで音楽サーバー機能を持たせられます。

内蔵ストレージを搭載し、USB接続の光学ドライブを用意すれば、CDをリッピングして本体に保存できます。購入時にはストリーマーとして導入し、必要になった時点でストレージを加えるという使い方も可能です。

SSDはユーザー自身でも取り付けられるものの、代理店としては動作確認や品質を担保できる純正ストレージを推奨しているとのことでした。半導体やSSDの供給状況によっては、容量によって入手しにくくなる場合もあるそうです。

この説明の後、邦楽を2曲試聴しました。

外部DACとしてDAVEを使用

ここからは内蔵DACボードではなく、STREAM1とSTREAM3をトランスポートとして使い、Hugo M ScalerとDAVEへデジタル出力した状態で比較しました。

試聴曲は次の2曲です。

DAVEへ接続すると、STREAM1単体で感じていた音の抜け切らなさや表面の雑味はかなり解消されました。

つまり、STREAM1で気になっていた部分の相当量は、本体そのものというよりStandard DAC Boardに由来していた可能性があります。

音場も大きく広がり、スピーカーの存在感が薄れました。STREAM1を純粋なストリーマーとして使い、外部DACを組み合わせる構成は十分に現実的です。

それでもSTREAM3へ切り替えると、音場の見通し、音像の立体感、空間の静けさがもう一段向上します。STREAM1+DAVEも悪くありませんでしたが、STREAM3+DAVEでは、音の周囲にまとわりついていた薄い膜がさらに取れるような感覚がありました。

この比較ではSTREAM3の良さが非常に分かりやすく、個人的には今回のラインアップの中で、価格と音質のバランスが最も好印象だったモデルです。

STREAM3でさまざまなジャンルを試聴

その後はSTREAM3を固定し、次の曲を聴きました。

ボーカルでは声の位置が明確で、口元だけを不自然に強調することなく、身体を伴った像として中央に定位します。

「Brush with the Blues」では、ギターの立ち上がりと余韻、バックのリズム隊との距離が見えやすく、広い音場の中で個々の音がばらばらにならずにまとまっていました。

細部を強調して高解像度に聞かせるというより、雑味を減らすことで結果的に細かな表情が見えるタイプの音だと思います。

ZEN Next-Gen+Phoenix USB Board

第1部の最後は、ZEN Next-Genへ変更しました。

ZEN Next-Genは、従来の上位機であるSTATEMENTシリーズの技術を取り入れた新世代のミュージックサーバーという位置付けです。試聴機にはPhoenix USB Boardが搭載され、USB出力からDAVEへ接続されていました。

「Angel」と「Brush with the Blues」をSTREAM3からZEN Next-Genへ切り替えて比較し、その後、次の曲を聴きました。

ZEN Next-Genでは、低域の沈み込みと、沈んだ後に跳ね返るような弾力が増します。

ボーカルでは、歌い始める前に口を開く気配や、息が動く瞬間まで分かりやすくなりました。空間の奥行きや、音像の周囲にある微細な情報も増えています。

一方で、システム全体の情報量が増えた結果なのか、STREAM3よりわずかに音が厳しく感じられる場面もありました。

細かな情報を聞き取れること自体は確かですが、「ここまで必要だろうか」と考えさせられる部分もあります。DAVEやTADの組み合わせを含めた相性、あるいは会場での音量の影響もありそうです。

第1部を通して最も気持ちよく聴けたのは、個人的にはSTREAM3でした。

第2部:ZENith Next-GenとNAZARÉ

DACは専門メーカーに任せるという考え方

第2部では、ZENith Next-GenとNAZARÉを、Hugo M ScalerおよびDAVEと組み合わせて試聴しました。

ZENやZENithは、STREAMシリーズのようにDACボードを内蔵して一体型プレーヤーとして使う製品ではなく、ミュージックサーバー/デジタルトランスポートに徹した設計です。

説明では、「DACはDACメーカーに任せる」という考え方が示されていました。Innuosは音源管理、ストリーミング、デジタル信号の出力品質に集中し、アナログ変換はCHORDなどの専門メーカーへ委ねるという分業です。

今回のようなハイエンドシステムでは、この考え方は自然に感じられました。

ZENith Next-Gen

最初に次の2曲を使い、ZEN Next-GenからZENith Next-Genへの違いを確認しました。

ZENithは、ZENの方向性を保ったまま解像度と滑らかさをさらに引き上げたような音です。

背景がより静かになり、個々の音の輪郭が細く鋭くなるのではなく、音像の内部まで密度が満たされます。声が重なる部分でも、それぞれの位置と音色を追いやすくなりました。

ただし、ZENからZENithへの変化は、STREAM1からSTREAM3ほど劇的ではありません。価格差を考えると、どこまで価値を感じるかはシステムと聴き手次第だと思います。

ネットワークトラブルによりNAZARÉを先に試聴

途中でネットワーク上のトラブルが発生したため、予定を変更して先にNAZARÉの内蔵音源を再生することになりました。

まず、ロサンゼルス・フィルハーモニー管弦楽団とズービン・メータによる「惑星」の「木星」で、FLACとDSDを比較しました。

この比較では、正直なところ大きな違いは分かりませんでした。

フォーマットそのものより、マスタリングや音源の出自、再生機器の違いの方が、実際の音への影響は大きいのかもしれません。

続いて、ホリー・コールの「I Can See Clearly Now」で16bit/44.1kHzとDSDを比較しました。

こちらはDSDの方が少し力強く、低域の動きが丁寧に聞こえました。ただし、ブラインドで確実に判別できるほどの差だったかと問われると、自信はありません。

CDリッピング音源とハイレゾ音源

MISIAの「眠れぬ夜は君のせい(Instrumental Version)」では、CDからリッピングした音源と、ダウンロード購入したハイレゾ音源を比較しました。

個人的には、後から再生されたハイレゾ音源の方が好みでした。

各楽器の配置が丁寧で、音が重なったときにも前後関係を把握しやすく感じます。ただし、これは単純なサンプリング周波数の差というより、配信版とCD版で使用されたマスターが異なる可能性もあります。

「ハイレゾだから良い」と結論付けるより、今回聴いた2種類の音源ではハイレゾ版の仕上がりが好みだった、と捉えるのが適切でしょう。

NAZARÉでシステムの限界を試す

続いて、低域や瞬発力を確認しやすい楽曲が再生されました。

「Lux Æterna」と「Black Samurai」では、ストリーマーの比較というより、TADのスピーカーとアンプを含めたシステム全体のテストを聴いている感覚が強くなりました。

大音量でも低域が膨らまず、強い入力に対して音場が崩れません。音の立ち上がりと停止が速く、スピーカーが余裕を持ってエネルギーを処理していました。

NAZARÉはSTREAM3より滑らかで、音像の密度も高く聞こえます。ただし、このクラスになると、再生システムのどこからどこまでがInnuosの効果なのかを切り分けるのは難しくなります。

DAVE、M Scaler、TADのアンプとスピーカーが持つ能力を、NAZARÉが制限せずに引き出している、と表現する方が近そうです。

Phoenix USB Boardの有無を比較

ネットワークが復旧した後、ZENith Next-Genに戻し、Phoenix USB Boardの有無を比較しました。

試聴曲は次の3曲です。

Phoenix USBを有効にすると、音に滑らかさと柔らかさが加わります。

単に高域が丸くなるのではなく、音が強くなるまでの過程と、弱く消えていくまでの変化が追いやすくなりました。「皇帝」ではピアノの打鍵の強弱や、鍵盤に触れてから音が立ち上がる感覚が分かりやすくなります。

Yosi Horikawaの「Stars」では、音の定位と実体感もPhoenix USB使用時の方がわずかに良好でした。

ただし、これは大きな音色変化ではありません。比較して初めて気付く程度の細かな差で、価格を考えると、まず本体やDACへ予算を配分した後に検討するオプションだと思います。

ZENith Next-GenとNAZARÉを比較

最後に、ZENith Next-GenとNAZARÉを改めて比較しました。

ZENithからNAZARÉへ切り替えると、一瞬、音量が少し下がったように感じました。

ところが聴き続けると、実際には音の密度が高まり、奥行き方向の表現が大きく変化しています。ZENithでも音場は十分に広いのですが、NAZARÉでは音が奥に並ぶだけでなく、奥から手前へ勢いよく迫ってくるような立体感があります。

「ワインレッドの心」では、ボーカルが前に張り付くのではなく、伴奏の奥行きを保ったまま身体を伴って現れました。「frostline」では、静かな部分から音が大きく展開する場面のスケールが明らかに違います。

NAZARÉは、下位モデルの延長線上で情報量を少し増やした製品ではありません。音の密度、奥行き、エネルギーの出方が変わり、唯一「別格」と感じられたモデルでした。

説明によると、NAZARÉの筐体はフランスの共振制御を専門とする企業が監修し、アルミ加工もCH Precision製品を手掛けるメーカーが担当しているとのことです。内部回路だけでなく、筐体の振動や共振まで含めて作り込んでいることが、音の密度や静けさに関係しているのかもしれません。

試聴会の最後は、次の2曲で締めくくられました。

全体の感想

今回の印象を単純に順番で表すと、次のようになります。

STREAM1標準電源
< STREAM1+LPS1
<< STREAM3
< ZEN Next-Gen
< ZENith Next-Gen
<< NAZARÉ

モデルを上げるごとに、音のクリアさ、滑らかさ、奥行き、定位、低域の質が少しずつ向上しました。

その中でも、とくに大きな差を感じたのは次の3か所です。

  • STREAM1へLPS1を追加したとき
  • STREAM1からSTREAM3へ変更したとき
  • ZENith Next-GenからNAZARÉへ変更したとき

ZEN、ZENithは確実に良くなりますが、STREAM3との差が価格差に見合うかについては少し疑問が残りました。一方、NAZARÉは価格も桁違いですが、音も明確に別の領域へ入っています。

内蔵DACについて

Standard DAC Boardは、個人的にはあまり好印象ではありませんでした。

極端に悪い音ではありませんが、STREAM1を外部DACへ接続したときに音の抜けや透明感が大きく改善したため、STREAM1本体の実力を十分に生かし切れていないように感じます。

Phoenix DAC Boardはかなり良く、単体プレーヤーとしてシンプルにまとめたい場合には魅力があります。

ただし、Phoenix DAC Boardまで追加すると価格も相応に上がります。その予算で外部DACを選べることを考えると、個人的にはInnuosを純粋なストリーマーとして使い、DACは別に用意する構成が最も納得できます。

最も好印象だったSTREAM3

現実的な範囲で最も印象に残ったのはSTREAM3です。

STREAM1との差は比較的大きく、外部DACへ接続した場合にも、音場の広さ、スピーカーの消え方、滑らかさに明確な優位性がありました。

一方、STREAM3からZEN、ZENithへ上げた際の変化は確かにあるものの、価格ほど大きいかと問われると難しいところです。

STREAM3は、ハイエンドへ踏み込みながらも、価格と変化量のバランスがまだ理解しやすい位置にあると感じました。

Innuosの音を聴いたのか、DAVEとTADを聴いたのか

ZEN以降では、音のクリアさ、滑らかさ、奥行き、定位が順番に向上し、再生音の純度が高くなっていきました。

ただし、ここまで後段が高性能になると、「Innuos固有の音」を聴いているというより、DAVEとTADシステムが本来持っている性能を、各Innuos製品がどこまで妨げずに引き出せるかを比較していたようにも感じます。

これは否定的な意味ではありません。

ネットワークトランスポートの理想が、強い個性を加えることではなく、後段機器の能力を自然に発揮させることだとすれば、モデルを上げるほどInnuos自身の存在を感じにくくなったことは、同社が掲げる「脚色しない」という思想に沿った結果とも考えられます。

今回の試聴会では、ストリーマーやサーバーによって音が変化することは十分に確認できました。

その一方で、すべての変化が価格に比例して価値を持つとは限りません。自分のシステム、使用するDAC、求める利便性、予算の中で、どこを着地点にするかが重要だと改めて感じた試聴会でした。

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